rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第42章 Fuckin' halloween!!
駅の階段を上がりきると、名無しはそこで深くため息をついた。
面倒だなと思ったのが率直な感想だ。
「……うう…」
この国が古くからの欧州の文化を捻じ曲げて、好き勝手に遊んでいることなど歴史で学び済みである。
自分が面白勝手に遊び、楽しみたいと思うような性分でなかったことにホッとした。
「……おい」
「!ナッシュ……よかった…居て」
「あァ?どういう意味だよ……。まあ…何が言いてえか分かるけどな……行くぜ」
「っ……あ…」
人ごみの中、携帯を持っているのだから待ち合わせが難しいということは別になかった。
それでも夜に差し掛かって、賑やかしくごった返した界隈で相手を見つけるというのは、なかなかに心労を要した。
冬も間近……けれどその前に大きなイベントが一日、一夜限りでひとつ。
好き好きに仮装をして群れる人を掻き分け階段の傍でナッシュを待っていた名無しは、彼の到着に心底安心感を覚えていた。
「…ナッシュはさ……」
「オレが好きそうに見えるか?」
「……見えま…せん…」
「ハハッ……だろう?馬鹿どもの集まりだ…最近は余所の国でも同じように騒いでるみてえだな……サルの住む国なんかは特にそうだろうよ」
部屋に行くときもそうだけれど、一度離れてから待ち合わせるまでの緊張感はいつまでも心のどこかにあった。
会えた嬉しさ、顔を見て抱く安堵。
視線が重なってどきどきとする感覚もあった。
名無しは、この日は特別、到着したナッシュの存在を心強く感じていた。
喧騒の中でも見つけてくれる、見つけられる……愛があってこその言動だろうと、ほんの少し自惚れてみせる。
「!」
「ほら……来いよ、名無し」
「ん……」
ナッシュの部屋まではあと少しだというのに。
はぐれないように、歩き慣れた街並にたむろする賑やかしから守られるようにして繋がれた手は、とてもあたたかかった。
早くこの手に身体をまさぐってもらいたい。
早くこの指で曲線をなぞってほしい。
早くベッドで全身を愛されたい……。
帰宅が近付くにつれ、純粋に膨らむいやらしい想いが、名無しの脳内を占めていった。
そして――。