rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第41章 tryst in a...
きっと自分の目にはフィルターがついているのだと思う。
都合のいい色眼鏡のような、なんにでも適応できるそれだ――。
ベッドの上で自身を持て余し、そこからナッシュが淡々と着替える姿を見つめていると、ただただ身体が火照ってゆく感触に苛まれる。
荷物の中からではなく、元々ソファに置いていた替えの服をとり、それを纏う彼の背を見つめているだけでどうにかなりそうだった。
名無しは今抱くべきではない気持ちを抑えつけるのに必死で、また暫く留守番をする羽目になり、しょんぼりとしたことを悟られまいと、笑みを見せごまかした。
「……ッ…」
待ってろ……そう囁いてくれたナッシュの声はとても優しくて、甘くて、それだけで溺れてしまいそうだった。
けれど満たされなかったのは、彼がこの部屋をこれから出て行くという事実が名無しに突き刺さり、言葉と同時に頭をポンと撫でられただけだったから。
触れたいなと思ったときに触れられないのは、こんなにもどかしいものなのかと思い改まる。
ふいにしたいと感じた、キスさえナッシュは降り注いでくれなかった。
見送る為に立ち上がり、部屋の出入り口まで彼の後ろをついた名無しは、赤い頬を繕って唇を噛み締める。
きっと可愛げのない表情になっていることだろう……くだらない悋気に暮れた、へたれた顔に違いない。