rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第39章 I'm full.
「っ…、も…」
「……なるほどな…フッ……なら話は早ぇよ。……ハハッ」
「、…ん……ッ」
「なあ名無し……そもそもおまえ、オレが出て行くまでのあいだに眠れると思ってたのかよ?一瞬でも」
「…な……ッ…」
「ハ……それだけのことだ。…寝かせねえ……」
名無しの描いていた理想の過ごし方のなかに、ナッシュのことを感じられない時間は入っていなかった。
ベッドでふれあっても、完全に眠って意識を預けてしまえば、そのあいだは会っていないも同然。
虚無と何ら変わりないほどに勿体ないと思えたのだ。
たとえ腕枕に甘えることができても、それすらも目を開けたまま、彼を間近に感じていたかった。
強まるばかりだった欲が深くなってゆくのを恥じ、はしたない感情ばかり孕む自分をこれ以上晒したくなくて、名無しは少しでも可憐な女性を演じようとする。
当然、いつもの如く意味のないその行為、己を隠すなと言わんばかりに、ナッシュは彼女の身を抱き寄せた。
「眠いなんて思えねえほど、おまえにはオレのことだけを考えさせてやるよ……名無し――」
今はまだ早朝……昼さえも程遠い。
開けられた浴室の扉。
それが閉まると、シャワーの流れる音に混ざり、再び名無しの甘美な声が聞こえる。
彼女の嬌声は、寝室に戻ってからもナッシュの予告どおり夕刻まで響いており、名無しはそのときはじめて、この部屋の鍵を受け取る決意をかためていた―――。
20180520UP.