rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第34章 fondness after (side Nameless)
「・・・・・」
色んな表情を見てきた。
人を煽る悪逆な笑みや怒り顔。
不機嫌そうな無を表すものに、高らかに嘲笑を零すそれ。
そのどれにも今はあてはまらない、無垢な寝顔とでも言ってしまえば表現は簡単だった。
「ナッシュ・・・」
端麗な顔のパーツひとつひとつをじっくりと見つめる。
息を吐く、色めき立って名無しの目に映るナッシュの唇は、思いのほか淡く女性的な発色をしていた。
「・・、ん・・・――」
眠りが深いと分かると、名無しはナッシュの顔のラインと唇をそっとなぞり、指先に伝うぬくもりを実感した。
首筋を見やれば、自分が残した真新しいしるしが肌色に混ざり、彼の身体を卑猥に演出している。
もっとも、ナッシュよりも名無しの方が、身体には無数のそれが刻まれていたのだけれど。
その深紅を残したときのことを脳裏で思い浮かべれば、身体にはまた新たに熱が宿り、腹の奥はきゅんと疼いた。
膝を摺り寄せながら、名無しはひとり頬を紅潮させる。
そして、むらついた気持ちが束になって押し寄せる前にどうにかしようと一考した。
彼女がとった行動は、スッとナッシュの腕からすり抜けて、寝そべっていたベッドから下りることだった。