rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第33章 fondness after (side Nash)
「・・・・・」
耳をすますことで確かに聞こえる、シャワーの流れる音色がナッシュを冷静でいさせている。
おおかた、早くに目が覚めて、再び眠ることが出来ずに消去法で選んでいた名無しの行動がそれなのだろう。
ナッシュは、自分が彼女を置いて浴室に行くことで名無しが募らせていた想いを実感し、一人ベッドで寝返りを打った。
名無しの横になっていたシーツのあたりを数回撫で、まだ残っていたぬくもりをてのひらに視線を下げる。
ふと見つめるのは、自らの腕の彫り。
「・・・・・」
この曲線を愛しそうに何度も何度もなぞっていた彼女の指先にさえ、好いた気持ちが膨れ上がる。
口にすることもねだることもないけれど、くすぐったい感触もくせになりそうだった。
「・・名無し・・・――」
返事がないことを分かっていて、意味もなく名を呼ぶ。
そんなことをするようになってしまったのも、彼女を自分に染めつつ、自分もまた、名無しに染められていた動かぬ証拠だろう。
口にするだけで恋慕も深くなる気がしていた。
同時に、確かに醒めていた筈の意識が再び眠気に囚われかけると、ナッシュはそこで無理に起き上がろうとはせず、身体を横に向けたまま目を閉じた。
まぶたを伏せた状態でもう一度口角を上げ微笑を漏らしたのは、自分がまだ、実は眠いと感じることに、大いに心当たりがあったからだ。
『ナッシュ』
「・・・フッ・・、―――」
どれだけ抱いたか、昨夜。
あり余る体力が種切れて、全身を使って、漲る精を吐き出し尽したか。
自らを呼ぶ名無しの声を脳裏に巡らせながら、ナッシュはまた小さく寝息を零していた。
浴室から響くシャワーの音が止んだのは、そのすぐ後のことだった。
20171111UP.