rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第31章 rain of fondnessⅪ
「さっき・・・一度言った・・おまえに」
「っ・・・?」
「――・・・いや、・・けどそれは一方的にだ・・・おまえ、シャワーの前に一瞬寝ちまってたからな・・・」
「!・・・あ・・」
鍛え上げられた分厚い身の上に跨るように寄り添って、キスをし合って、鼻先が触れる位置で声を耳にする。
ナッシュが何をどう口にするか、どきどきと胸を高鳴らせていた時に名無しがふと思い出したのは、このベッドの上で一人きりにされたときのこと。
夢じゃなかった。
自分が聞いた、彼が囁いた一言は気のせいでも何でもない現実だということ。
「ハァ・・・ッ、クソ・・―――」
あのとき、名無しが起きていたことをナッシュは知らないままだった。
だから、ただ彼の言うとおり一方的に口にされていたことが、今はまだ名無しをほんの少し不安に思わせていた。
それだけのことだった。
「ナッシュ・・・?」
「・・・ッ」
次の瞬間、名無しにとって初めて目にするナッシュの姿がそこにあった。
言ってしまえばそれはただの人が零す表情だったのだけれど、視線を逸らし、髪の色と重なった、伏せたまぶたの明るいそれがよく目立つ。
明るすぎない寝室でも、惹き付けられる感覚を覚えて仕方ない・・・名無しにはそれがよく見えていた。
「ッ・・・ナッシュが・・」
しらばっくれていた気持ちが今ならよく分かる――。
そう言いかけた名無しの言葉は、喉の奥へと彼女自身が戻していた。