rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第31章 rain of fondnessⅪ
耳にしたと同時、名無しの声が震えていたことは嫌でも分かる。
それはとても儚く、脆く、今にも消えてしまいそうな音色だった。
ただ、たとえ潤んでいても輝石のような眼差しを見せる、彼女の気持ちもまた強くナッシュには伝わっていた。
キスなんかでごまかさない、ごまかしたくもない。
目と目を重ね、心から想う相手に紡ぐその言葉を・・・。
「・・・ン・・、・・ッ」
「――・・・」
ナッシュに追って問われ、少しの動揺をちらつかせる。
それでも最後まで言いたかったことを口にした名無しは、言い切って初めて、彼の唇に触れることで、その場の甘い空気を自らやんわりといい意味で濁した。
自分から口付けるなんて、そうよくある展開ではなかった。
真剣に見つめ合った恥ずかしさからキスに逃げ、返答を聞くことにもまた臆病になり、思わずその薄い唇を塞ぐ。
「ん・・・」
軽く触れ合った二人のそれは、名無しの動揺から舌を出すことも忘れ、ただ啄ばみ合うような形しかなされなかった。
けれどナッシュの口から漏らされる言葉に不安を抱いても、塞ぐにしたって限度はあった。
このキスを終え、それから次はどうすればいいだろうか・・・。
そう名無しが戸惑いながら、ゆっくりと唇を離す。
すると後頭部には、ナッシュの腕が伸ばされていた。
髪を巻き込み撫でられて、また触れていたのは、親指がそっと彼女の耳元へ。