rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第31章 rain of fondnessⅪ
「なんだ・・・!おい・・・起き・・」
「ん、・・あの・・・。これ」
「!・・・おまえ」
ナッシュに寄り添った名無しが片頬を膨らませていたのは、彼にとってそこが死角だったから。
こんな表情を見られようものならきっと瞬く間にからかわれるに決まっているし、また組み伏せられる予感だって容易かった。
何の咎めた想いもなく彼の腕に身を寄せて、他愛なく、流れる時間を気ままに過ごす。
触れるなと軽く釘を刺されても、彫られた墨のラインは見れば見るほどに繊細で、それをなぞることを名無しは小さく楽しんでいた。
「・・合ってる、よね・・・?」
「・・・・」
「その。帰りに空港で見つけて・・これだと思って・・今のタイミングになっちゃったけど、今日中に渡したくて・・・」
自分もそうだったのだけれど、ナッシュの身体は未だ熱を持っており、それが性的興奮を誘わないことはまずなかった。
けれどこのまったりとした、眠る前の落ち着いた雰囲気から逸脱することもなんとなく避けたいと名無しは思った。
抱かれる覚悟はあったとはいえ、いざ穏やかに流れる時間を過ごすと、それもいいと純粋に感じられたのだ。
「・・・・・」
「・・どこでだって手に入るって分かってても・・・つい・・」
名無しがそこでふと至った考えは、一度起き上がり、自らの鞄に腕を伸ばすということ。
ナッシュの傍を離れてでも、手にしたその中からおもむろにあるものを取り出したのは、同日今の今まで機を窺えなかったから。
小さな鞄からは更に小さなものを持ち、名無しはすぐさまベッドに戻った。
隣でぺたんと座り込み、寝そべるナッシュにそれを見せる。
名無しの手中のものを目にした瞬間、彼が起き上がったのは言うまでもなかった。