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rain of fondness【黒バス/ナッシュ】

第5章 rain of fondnessⅡ


「ちゅ・・・、ちゅ・・――ん・・・」

「ッ・・・!・・ぁ・・・」


建物の入口に着いた時には、名無しの頬染まっていた表情は一気に素に戻っていた。

それは身体と心の奥底にあった記憶が、沸々とよみがえったからだったのは言うまでもないこと。

膝が震えて、急に、掴まれていた手を離して欲しいという思いがどうしてもこみ上げた。


ナッシュはクラブハウスの扉を開けると、そこに来るまで従順だった名無しが尻込みして、連なって前進しなくなったことに気付きすぐに振り返った。

消えた赤ら顔・・・その表情は硬く、顰めた眉は、幾度となく目にしてきたものだった。

小さく舌打ちをすると、ナッシュは名無しのことを力強く引っ張り、そのまま容易く、彼女を建物の中へと連れ込んだ。


「っ・・・」


施錠をした直後、バッグは中身に構うことなく放り投げられる。

入室してすぐ、華奢な背が扉にぴたりとつけられると、そこで再び、ナッシュは名無しに唇を重ねた。


「、・・ひと・・・誰か来・・」

「聞いてたろ・・・誰も来ねえよ。――来させるかよ・・オレが」

「ッ・・・ナッシュ・・!あ・・・」


会えて嬉しい筈なのに・・・。

抱き締められることに、キスをされることに拒絶反応が出てしまう。
全部して欲しいと願っていたものばかりだった。
胸が苦しくて、この二週間、どんな気持ちで離れ、あわよくば忘れようとしたことか。

思い出そのものさえ、出会ったことさえなかったことにできればどんなに楽だろう。

無論忘れられるわけなかったし、ひと目会いたいと願ったから、名無しは自らの意思でここまで来ていた。
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