rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第5章 rain of fondnessⅡ
あの場所で、キスだけで済んだことが嘘のように感じる。
まあ、いくらどれだけ性の悪い男でも、いつ人が通るか分からないところで、無闇やたらに手を出すようなことは誰だってしないだろうけれど。
その分、室内に移ったときのことを考えるのは、なかなかどうして恐ろしいものがあった。
それにこの場合、まずは連れられるであろう密室は、ひとつしかなかった。
「ふぁ・・、んっ・・・ン・・・、ぁ・・」
「・・・・・・」
「ッ・・・ナッシュ・・・、待・・っ」
衝動に駆られる。
きつく抱き締められた際、服に付いたのだろう・・・ナッシュの汗の匂いが、名無しに懐かしさと、そして彼そのものを欲しいと思わせる。
身体は緊張によるどきどきと、そして情感を帯びたむらつきを確かに抱いていた。
が、踏み込めない何かが、そこに存在しているのもまた事実・・・。
無機質な建物が目に入ると、まだどうしても、名無しの心はぎゅっと傷んだ。
「ん・・・」
しばらく来るな・・・シャワーなら、女の部屋にでも上がり込んで好きに浴びろ。
持っていたバッグパックは外側の物入れから携帯をおもむろに取り出し、ナッシュが電話を繋いだ相手に告げた言葉がそれだった。
チーム内の誰にかけていたかは名無しには分からなかったけれど、彼が電話の相手に伝えていたその意味だけは、否が応でもはっきりと分かった。
抱擁にキス、手首を強く掴まれて、目的の場所に向かいながら、ナッシュはその通話を立ち止まるまでに終わらせる。
名無しが胸のざわつきを覚えながらも抵抗出来なかったのは、掴まれた手から波及した彼の熱の所為だ。
愛しいと感じる大きなその手に触れられて、ほんの少し、声を荒らげて耳元に携帯を宛がうナッシュの後ろ姿を、名無しはただ赤ら顔で見つめていた。