rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第23章 rain of fondnessⅧ-2
名無しがキョトンとした顔でナッシュを見上げていた理由はいくつかあった。
まず、間違いなく見られていたであろう、自分の目元の違和感に気付かれていなかったこと。
一目散に皮肉のひとつやふたつを込め、泣いていたことに突っ込みを入れられるとばかり彼女は思った。
それが起きなかったことが、名無しには不思議で仕方なかった。
次いでシャワーを促され、掴まれた手首がやけに湿っぽかったこと。
ナッシュが自身の濡れた身体を拭き取ることなく、ローブひとつで寝室まで戻ってきたことが、どうしても意外に思えたのだ。
何か焦りや急ぎを生じていなければ、そんな状態でベッドの傍まで来ないだろう。
「、・・・ッ・・」
自惚れたくなった瞬間だった。
けれど名無しはせめて、礼のひとつを口にすることで、出したいと感じた言葉をぐっと堪えた。
置いてけぼりにされ、寂しくベッドで一人、眠る自分を想って迎えに来てくれた――なんて言えば、瞬く間にふわふわとした雰囲気はナッシュの手で壊されると思った。
「・・・・・」
自分から敢えて眠っていたとも申告しながら、彼の気を逸らす。
涙を流したことに気付かれていない以上、「あのとき」意識があったことも、ずっと隠していたいと何となく思った。
いつか自分が、もっともっと自信を持ってナッシュと向き合えた時に、そのことを何気なく口に出来ればいいと感じたから・・・。
名無しはナッシュに掴まれていた手首を自然と解放されると、自分から彼の手にそれを絡ませ、ゆっくりと起き上がった。
ようやく床に足をつけ、初めて同じ気持ちを共に抱いたまま浴室に向かう。
行き慣れたそこへ入ることに胸が躍り、逸り、身体の奥がまた熱くなっていたのは勿論、名無しだけに起きたことではなかった。
rain of fondnessⅧ