rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第22章 rain of fondnessⅧ
ナッシュの部屋に訪れて、玄関を入ってすぐのこと。
抱擁によって自由を奪われ、そのまま熱く口付けられた。
なだれこむようにベッドへ寝かされ、激しく抱かれた同じ場所で名無しがしていたのは、今はシャワーを浴びていた彼をただ想うことだったけれど、同時に自分の鞄も探していた。
玄関で辛うじて拾い上げたものの、押し倒された時、どの位置にそれを放り投げていたかまるで分からなかったのだ。
まあ、部屋を見渡せばすぐに見つかりもしたし、ベッドから少し腕を伸ばせば手に届きもした。
名無しはそこから自分の携帯を取り出すと、届いていたメールや着信の表示には気にも留めず、黙ってひとつの画面を開いていた。
「・・・・・・」
開き、見つめるは登録情報・・・勿論、ナッシュのデータだ。
が、電話帳に登録されていた彼の情報は、名無しが入れたものではなかった。
なんとなく番号に目を向けながら、その当時のことを思い浮かべる。
初めての事後、ベンチの上で起き上がることも出来ずにいた名無しは、取り上げられた携帯をナッシュが無表情で操作している様を黙ってぼんやりと見ていた。
何をしているのかと叫べる気力も無く、枯れた喉は言葉を発することも難しかった。
ナッシュはそのとき名無しの携帯に自分の連絡先を入力しており、発信と送信を行って、彼女のデータを自分にも渡るよう仕向けていた。