rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第19章 rain of fondnessⅦ-3
『や・・・っ、こないで・・おねがい・・・』
『・・・・・』
『っ・・やだ・・・』
『・・・ハ・・ッ、こういう状況になると・・・男の名前のひとつでも叫ぶもんだろう・・?それとも、そんなもんは低俗ポルノの中だけの話か?』
『ッ・・』
『・・・呼べる男もいねえか・・――?』
『、・・ッ・・・』
『!――ハハ・・・ッ。・・・いねえんだな?』
入室させられて早々、異様な雰囲気を感じたのは言うまでもない。
どんよりとした空気が漂っているかと思えば、時折鼻腔を突くのは、爽やかささえ感じる制汗剤やきつい香水の香り。
出入りしている人間がそれぞれ好き勝手にこの場所を利用していることが、なんとなくではあったけれど生々しく伝わってくる。
意外だったのは、その殆どが男であろうというのに、施設の中は名無しの想像以上に綺麗だったことだ。
『オレも・・随分と好都合な女を引っかけちまったよ・・―――これなら、携帯も忘れた甲斐があったかもな・・・』
『いや・・・、ん・・!!』
『――・・・ん・・』
重い扉が閉められて、まるで牢にでも入れられた気分だった。
何かを制限されているわけではないのに、自由であって自由がない・・・ナッシュの前に居るということは、もうそういうことだ。
奥へと通されて絶望の文字が色濃くなったのは、乱列していたベンチに押し倒されたから。
背を浮かして起き上がろうとしたと同時、ナッシュは名無しの目前にまで迫り、大きな手のひらは彼女の耳から頬をそっと撫でた。
怯える様子に、一筋の光明さえ見せることはない。
鋭い眼光は品定めでもするかのように、華奢なか弱い彼女の全身を舐めるように見渡す。
目が合って何かを言いたげに名無しが唇を開けば、ナッシュは彼女のそこに自身の舌を滑り込ませるだけだった。