rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第16章 rain of fondnessⅥ
「・・・・――ちゅ・・・」
前髪を掻き分け額に口付ける。
きついと感じさせるほど抱き締めてやりたかった名無しにそうしなかったのは、自然に目を覚まして欲しいと思ったからだ。
感じた眠気に抗い、それよりも喉の渇きが気になったゆえに、ナッシュはゆっくりとベッドから起き上がった。
床に足を付けながら、自身のローブはどこに置いていたものかと部屋を見渡して、定石通りのソファにあったそれに手を伸ばす。
どうせそのままシャワーも浴びるつもりなのだ、軽く羽織るだけにして、さっさと冷蔵庫に冷えている炭酸水を口にしたいと思いながら、ナッシュは今一度名無しの方を見つめた。
「・・・・・」
枕に頬をすり寄せ、その端を軽く掴む。
気持ちよさそうに眠る彼女の姿に、見えなくなったのは胸元から下の曲線。
ほんの少しだけケットを掛けた自分のことを、ナッシュは呆れまじりに恨み笑んだ。
「―――・・・二度と離すかよ。名無し・・――」
喉を潤して、シャワーを浴びて、どうせまた喉を潤す。
その後に、自然と肌恋しさに目を覚ましていれば理想だなと思い描く。
音色は奏でない・・・唇を動かすだけのつもりでいた自分が、続けて言い紡いだ言葉をナッシュ自身耳にした瞬間も、名無しは寝息を立てていた。
火照った身体を冷ますべく、彼女をベッドに一人残して浴室に向かったナッシュが、枕の端を握る、名無しの華奢な手にぎゅっと力が込められていた所作に気付くことはなかった。
rain of fondnessⅥ