rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第16章 rain of fondnessⅥ
『・・・バカみてえに、オレに惚れてやがる・・・じゃあな』
散々関係を持っていたというのに、思えばこの女はもう必要ないと、自身の携帯からいつしかデータは削除していた。
が、そうやって携帯を弄った日のことを、ナッシュはあまり覚えていなかった。
きっと名無しを初めて抱いてから、程無くして無意識に行った出来事だったのだろう。
眉を顰め、おまえはもう用済みだと言わんばかりに冷たく返事をするのは、相手を見下すいかにもナッシュらしい表情と所作。
が、一種の気まぐれか、別れる直前に最後に問うてきた女のそれに、ナッシュは自身の本音をありのまま舌に乗せ、言葉にした。
そうして背を向け再び一人帰路を辿りながら、衣服の物入れから取り出した携帯は、電話帳を一通り見直した。
『・・・・・――』
それなりに登録されていた筈だったし、実際名無しと寝ていた時も、何人か関係を持っていた相手から連絡は来ていた。
そんなこともあったかと、物思いに耽りながら改めて眺めた電話帳と、アプリに入っていた登録リスト。
名無し以外の女のデータは、既にすべて消えていた。
『――・・・』
ナッシュは名無し恋しさに、一度だけため息をついた。
次に彼女に会うまで大きく息を吐くことがなかったのは、そのあいだ、着慣れたあの黒い上下に袖を通し、無心で、且つ、荒々しくコートを駆けていたからだった――。