rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第16章 rain of fondnessⅥ
『・・・・・』
出会わなければ、まさか愛だの恋だのに苦しむこともなかったかもしれない。
そんな矢先に舞い込んだのが、名無しが旅行に出るという彼女からの報せだった。
ここで二週間。
離れ続けて、一瞬でも名無しを思い出さなければ、ナッシュは今まで通りの日常に戻れるだろうと推考していた。
出会う前の自分をありのまま演じ、それをまたずっと過ごしてゆくだけだ。
その筈だったのに――。
『ああ・・・気分じゃねえ・・。悪いがもう相手にはなれねえよ・・・二度とな。だからオレのデータも消しとけ・・』
ナッシュが名無しを思い出したのは、彼女が旅行に発って、ほどなくしてのことだった。
抱きたいと思う女が傍にいない日が続くことが、どれだけ歯痒く、ストレスに感じるか・・・。
苦しいという概念に責め潰されそうになる瞬間が自身に訪れるなど、まさか思ってもみなかったことになかなかどうして自嘲する。
『女?・・ああ・・・そうだな。・・・だからオレが今おまえを抱いたら、あいつが怒る・・・妬いて狂って、どうにかなっちまうだろうな』
チームメイトと別れ、単身歩いていた街の中。
曲がり角で偶然すれ違ったのは、過去に幾度となく関係を持った女だった。
それも、名無しと出会う直前まで何度も部屋に連れ込んでは頻繁に抱いていた、自身のお気に入りの一人。
そんな女に声をかけられ夜を誘われても、ナッシュの中ではすでに答えは決まっていた。
そしてそれを、さらりと口にしてみせた。