第10章 手の温もり一期一振
目が覚めると、部屋にひゅうがの姿はなかった。
昨夜のことは夢だったのかもしれない。
そう思うが、額には彼女が触れた温もりが鮮明に残っている。
一期一振は名残惜しそうに額に触れる。
すると、部屋の外に気配を感じた。
「一期一振、起きているかい?」
障子越しに声を掛けられ、一期一振が障子をゆっくりと開ける。
すると、そこには歌仙兼定が立っていた。
「歌仙殿……?こんな早くからどうされたのです?」
「明け方、主が君の部屋から出ていくのを見てね。何をしていたのかなと気になったんだ」
歌仙の目は、一期一振を責めるかのように鋭いというのに、口調はどこか穏やかだった。
「その、主とは……主は私の体を心配して来て下さっただけです」
「そうなのかい?僕はてっきり睦ごとでもしてたのかと思ったけど?」
「歌仙殿、私は主にそのようなことはっ!それに私は主を……」
ひゅうがを女性として想ってはいない。
そう言おうとしたら、少し胸が痛んだ気がした。
「否定すると言うのかい?僕はそんなことはしないよ。僕は主を心から想っている。君は違うの?」
「否定も何もそんな……それに、主は既に心を通わす相手がいるのでは……」
「真面目だね、一期一振は。別に、愛刀はたった一振りだけとは限らない。君の前の主だってそうだろう?」
一期一振は歌仙の言葉に動揺した。
確かにそうだが、一期一振はそのような考えには至らなかったのだ。