第10章 手の温もり一期一振
「風の音……ですか」
「そう、風と木や草花が揺れる音……と、胸の鼓動」
ひゅうがはゆっくりと一期一振の髪を撫でた。
目を閉じているからか、彼女の手の温もりや声、そして彼女からするほのかな花の香りが鮮明に感じられる。
「疲れると、落ち着かなくなって……色々考え込んじゃうよね」
そんな時、ひゅうがは横になって自然の音を聞く。
そうすると不思議と心が落ち着くのだと彼女は言った。
「一期一振、あまり無理しないで?きちんと休んでね」
ひゅうがは一期一振の体を労った。
その一言に一期一振は先程までの自分の考えを恥じた。
ひゅうがはそんなつもりでここに来たわけではないのだ。
「主……」
「ゆっくり休んで、眠るまでここにいるから」
再びひゅうがは一期一振の髪を撫で始め、その心地良さに、ひゅうがの声が遠ざかっていくかのような感じがした。
まだ、こうしていたい。
なのに、一期一振の意識は眠りへと落ちていく。
「おやすみなさい、一期一振」
彼女は自分が寝たら、行ってしまうのだろうか。
ずっと、そこにいてほしい。
加州ではなく、自分のところにずっと。
一期一振はぼんやりとそう思いながら眠りについた。