第10章 手の温もり一期一振
「僕の主だった人だってそうさ。そして、僕らが刀だった頃は、主に振るわれるのを待つだけの存在。だけど……僕たちはもう、待つだけの刀じゃない。そうだろう?」
歌仙はそれだけ言うと、一期一振の言葉を待たずに部屋から出て行ってしまった。
「私は…………」
ひゅうがをどう思っているのか。
彼女はか弱く、儚い存在。
そう思ってはいたが、女性としてどう思っているかは考えていなかったかもしれない。
一期一振はそっと額に手を当てる。
目を閉じれば、昨夜見た彼女の姿が鮮明に思い出せた。
「…………」
彼女をどう思っているか考えていなかったのではない。
考えたくなかったのだ。
ひゅうがと加州とのことを考えては、胸がざわついていたのは、一期一振が彼に嫉妬していたからかもしれない。
思い返せば、納得が出来てしまう。
いつからこんな感情を抱いていたのか、一期一振には分からなかった。
だが一度気付いてしまうと、抑えきれないほど溢れていく。
「主、貴方を恋い慕っても…いいのでしょうか」
一期一振の問いにひゅうがは、わかったと。
きっとそう言うだろう。
ひゅうがならきっと全て受け入れてくれる。
それなら、ひゅうがを想ってもいいはずだ。
今はもう、主に振るわれるのを待つだけの刀ではない。
「主、私は……っ」
一期一振は何かを決意したかのように拳を握りしめた。
第十一章に続く