第10章 手の温もり一期一振
「一期一振、待って……ねぇっ」
ひゅうがが一期一振の後ろで言うが、一期一振の耳には届いていないかのように彼は歩みを止めようとはしない。
「痛いっ、一期一振……腕が痛い……よ」
強く引かれる腕の痛みをひゅうがが訴えると、一期一振は我に返ったかのようにようやく立ち止まり、彼女に振り返った。
「主、申し訳ありません………」
「一期一振……?」
お互いに向かい合い、一期一振はひゅうがに謝るが、それ以上口を開こうとはしない。
そんな一期一振にひゅうがは近付くと、彼の頰にそっと手を当てた。
「悲しそうな顔……どうしたの?」
ひゅうがは困った顔をしながら一期一振の顔を見る。
彼女を困らせたいわけではない。
そう思うが、一期一振は言葉が出なかった。
「私にできること……あるかな」
「主、あの……」
何か言わなくては。
だが、何を言えばいいのだろうか。
「主……、貴方と二人きりになりたい……です」
一期一振は小さな声でひゅうがに言った。
それは、多分きっと無意識に出た言葉だった。
口をついて出た言葉に一期一振自身が一番驚く。
「……わかった」
ひゅうがは優しく微笑んだ。
一期一振はひゅうがのその反応にも驚くが、そんなことも構わず、今度はひゅうがが一期一振の手を取ると、その手を引いて歩き出した。