第10章 手の温もり一期一振
遠征から戻ると、辺りはすっかり暗くなっており、風が吹き荒れていた。
あんなに良い天気だったいうのに、今は嵐のように風が強く、ガタガタと格子窓が揺れている。
風が吹き荒れる音を聞きながら、一期一振はひゅうがのことを考えていた。
何故、ひゅうがと加州のことが気になってしまうのだろう。
あの日、ひゅうがが加州の部屋にいたかと思うと、一期一振は言いようの無い焦燥感に駆られる。
遠征で疲れた体を休めたいが、今のままでは部屋に戻っても休めやしないだろう。
一期一振は刀剣男士達の部屋がある区画を闇雲に歩いていた。
すると、目の前の障子がゆっくりと開き、ひゅうががおそるおそる部屋から出て来た。
「……っ⁉︎」
今夜も、誰かの部屋に通っていたのだろうか。
一期一振は胸に霞がかったような嫌な気分になる。
ひゅうがと目が合うが、思わずひゅうがから目を背けた。
「一期一振?遠征から戻ったんだね。おかえりなさい」
「え、ええ……先ほど戻りました」
後ろめたさもなく、平然として話すひゅうがに一期一振は少しの苛立ちを感じ、ひゅうがの顔を見ることが出来ない。
「遠征で疲れてるのに、弟達が心配だったんだね。五虎退達ならもう寝たから、一期一振も休んで?」
「えぇ………っえ?」
顔を上げて辺りを見ると、ひゅうがが出て来たのは粟田口の短刀達の部屋。
一期一振の弟達のいる部屋だ。
そのことに気付けなかったのは、あまりのことに冷静でいられなかったから。
「私も短刀の子達が心配でね、そしたら乱が部屋に来て五虎退が怖がってる言うから、さっきまで一緒にいたの」
「そう……でしたか」
「私もつい一緒になって寝ちゃった」
一期一振は心から自分を恥じた。
ひゅうがは弟達のためにこの場にいるのだ。
一期一振はひゅうがに礼を言おうと、彼女の方を見ると、薄い寝間着姿が少し乱れ、胸元が少し開いてしまっていた。
そんなひゅうがの無防備な姿に一期一振は何かを煽られた。
「…………あっ」
一期一振はひゅうがの手を取ると、半ば強引にその手を引く。
突然のことにひゅうがは驚いて一期一振を呼ぶが、彼は黙ったまま、ひゅうがを連れて廊下をひたすら突き進んでいった。