第10章 手の温もり一期一振
昼餉の後、一期一振は遠征へと赴いた。
隊長としてへし切長谷部が一期一振の他、新たに顕現した蜻蛉切を率いる。
長谷部は蜻蛉切に遠征について丁寧に所作を指導し、蜻蛉切は真面目な性格なのか時折質問をしながら話を聞いていた。
「長谷部殿は指導がとても上手ですね。本丸についてもよくご存知ですし……とても参考になります」
本丸内のことは長谷部が一番詳しい。
顕現後、ひゅうがが本丸の案内をするが、ひゅうがが出来ない時は長谷部が案内することが多い。
また、何か不明な点があれば長谷部に聞くのが一番早い。
「実は長谷部殿にお聞きしたいことがありまして」
「なんだ?そんな改まって」
「その……、主は私達刀剣男士と枕を共にすることがあるのですか?」
長谷部ならば、何か知っているのではと一期一振は考えた。
だが、長谷部の表情は固まり、言葉を失ったように止まっている。
「…………は?」
「主は本丸唯一の女人、審神者としての責務や重圧もあるでしょうし、お辛い時に私達が寝所に寄り添うことを望まれることも……」
「ない!断じてない!主がそんなっ!一期一振、なんて邪な……」
一期一振が最後まで言う前に、長谷部が叫んだ。
あまりの剣幕に蜻蛉切が何事かと振り返る。
長谷部は咳払いをし、なんでもないと蜻蛉切に告げる。
長谷部は一期一振を見ると、一期一振が真面目な表情をしていることに気付き、蜻蛉切に聞こえないよう小声で一期一振に話した。
「そうだな……主は本丸唯一の女性だ。我々刀剣男士には、主の心を計ることは出来ない。我々が主に添いたいと望むことはあっても、主も同じかは……俺にもわからない」
「そうですか……すみません。ただ、気になったものですから」
長谷部からは明確な答えは出なかった。
長谷部はまだ一期一振に何か言いたげな表情をしていたが、本丸に帰還する時が迫っていた為、それ以上は何も言わなかった。