第10章 手の温もり一期一振
一期一振は自室に戻る途中、加州清光の部屋の前に差し掛かると、何かを確かめるようにその場に立ち止まる。
そこにあるのは、穴が開いた障子。
昨日その穴から突き出ていたもの。
「てっきり加州殿かと思っていましたが……」
おそらくあの手はひゅうがだろう。
先ほど一期一振が感じた既視感はこれだ。
あの時、ひゅうがは加州の部屋にいた。
彼女は加州と一晩共に過ごす仲なのだろうか。
それとも。
ひゅうがは本丸内唯一の女人。
一期一振からはひゅうがまだ幼いが、審神者という重圧に苦しみ、心身ともに疲弊した時に、彼女が我々を求め、我らがひゅうがを慰めることもあるのかもしれない。
「もしくはその逆……」
ひゅうがは無垢な少女に見えるが、女人の心は計り知れない。
「主が女人というのは、難しいですな……」
先に顕現した者なら、何か知っているかもしれない。
遠征の折にでも聞いてみるか。
ため息をつくと、一期一振は自室へと戻って行った。