第10章 手の温もり一期一振
「昨日植えたばかりだから、そんなに沢山実がなってないけど、一期一振にあげたら喜ぶかなって」
「主、貴女は……」
ひゅうがが一期一振と話す機会がないのは、彼女は自分に興味がないからかもしれない。
ひゅうがが欲しいのは、再刃された刀ではなくもっと強い刀。
だから、ひゅうがは己を酷使してまで次の刀剣男士を顕現したのだと。
何度も不安がよぎり、一期一振はひゅうがの刀剣男士としてどう在るべきか分からずにいた。
だが、それは違っていたのかもしれない。
ひゅうがは一期一振のことをきちんと見ていたのだ。
「今日は遠征に行くでしょ?だからその前に渡したいなって、つい急いじゃった……」
ひゅうがが再び一期一振に手を出した。
すると、一期一振がひゅうがの手のひらに手を伸ばす。
「……頂戴致します」
一期一振がひゅうがの手からブルーベリーを摘み上げようと、彼女の手に触れる。
小さな粒を摘んだ瞬間、一期一振は違和感を持った。
「…………?」
思わず一期一振はひゅうがの手を取り、その手をまじまじと見つめる。
手入れの行き届いた、女人らしい白くて細いひゅうがの手。
その手に、一期一振は何故だか既視感を覚えた。
「一期一振?」
ひゅうがが不思議そうな顔で一期一振に声を掛けると、彼は慌ててひゅうがの手を離した。
「失礼しました。それでは、いただきます」
噛んだ瞬間に広がる甘さと、あとからくる酸味。
昨日、口にした一粒よりも甘さがあり、一期一振は目を閉じて舌鼓をうった。
「主、あの……」
「まだあるから、食べてね」
目を開けると、ひゅうがはブルーベリーが何粒も入った小さな籠を微笑みながら一期一振に差し出した。