第10章 手の温もり一期一振
「仕方ありませんね。主、お覚悟をっ」
「えっ⁈ちょっと……そんなぁ」
一期一振はひゅうがの身体を両腕で抱き上げると、彼女を横抱きにした。
ひゅうがはまさか一期一振に横抱きにされるとは思わず、身体を強張らせた。
「さぁ、行きますよ。どちらに向かえば良いですか?」
一期一振はしっかりとひゅうがを抱き、降ろす気配はない。
ひゅうがにしてみれば、本当に放って置いて欲しかったが、こうなってしまった以上、一期一振に連れて行ってもらう方が良いのだろう。
「…………稽古場の方へ」
ひゅうがは観念したらしく、一期一振の襟元をキュッと摘むと小声で向かう先を伝える。
「誰にも見つからないようにして」
「かしこまりました」
誰にも見つからないように。
一期一振はこの時、ひゅうがが自室で臥せっていないことを知られたくないが故に出た言葉だと思っていた。
どんな理由で臥せっていると偽ったのかはわからないが、その言葉通り、彼は細心の注意を払いながら稽古場に向かった。