第10章 手の温もり一期一振
一期一振が馬舎へ向かおうと廊下を歩き、角を曲がろうとすると、向かい側から勢いよく人が現れた。
「あっ……っ‼︎」
「…………っ」
勢いよく相手とぶつかり、一期一振は軸足に力を込めて倒れないようにしたが、相手は勢いよく後ろに倒れた。
尻餅を突き、痛いと呻きながら顔を上げた相手に、一期一振は驚く。
「……⁉︎主っ⁉︎すみません、お怪我はありませんか?」
「ごめんなさい、悪いのは私だから……急いでてつい走っちゃって」
自室で臥せっているはずのひゅうがが何故ここにいるのか。
一期一振はひゅうがにそう問いたいのを抑え、床に座り込むひゅうがに手を差し出した。
「主、立てますか?」
「ありがとう一期一振、……ぁっ、いたっ……」
一期一振の手を取り、ひゅうがは立ち上がろうとする。
だが、足に力を入れた途端に痛みが走り、再びひゅうがは座りこんだ。
「足を捻ったみたい。立つのはちょっと辛いかな」
「私が手を貸しましょう。どこかへ急いでいたのでしょう?」
「……えっと、平気。しばらくすれば治るから、一期一振は私に構わず行って?」
ひゅうがは首を振って一期一振の申し出を断る。
確かに、ひゅうがは大抵の怪我はしばらくすれば治る。
彼女の力について、一期一振や他の刀剣男士も本人から知らされてはいる。
だが、治るからといってひゅうがをこの場において立ち去れるわけがない。
「そんなわけにいきません。さぁ、私につかまって下さい」
「…………」
「……主?」
ひゅうがは困った顔をしたまま、頑なに一期一振の手を取ろうとしない。
その様子に一期一振は溜息をつく。