第10章 手の温もり一期一振
一期一振が食事当番を勤めた翌日、彼は遠征に出ることになっていた。
ひゅうがの本丸は刀剣男士の数が少ない為、彼らは出陣か遠征、もしくはなにかしらの当番にあたっている。
昨日、ひゅうがが新たに刀剣男士を五振り顕現させ、太刀の燭台切光忠、打刀の鳴狐、槍の蜻蛉切。
そして、大太刀の石切丸と太郎太刀をこの本丸に迎えたが、それでもまだ足りないのだという。
いずれも力のある名刀、特に大太刀を二振り顕現させたこともあり、ひゅうがは自室で休んでいると、今朝の朝食で近侍の加州清光から全員に伝えられた。
それを聞いた一期一振は、何故ひゅうがは自らを酷使してまで刀剣男士を顕現させるのか。
自らを犠牲にして戦い、その先になにを求めているのか。
ひゅうがに対して問いかけたいことが沢山ある。
そして、一期一振がひゅうがを想う時、彼の心にはある不安がよぎるのだ。
ひゅうがに問いたくても、彼女と話す機会があまりない。
そのことで一期一振は時折、焦燥感に駆られる。
一期一振はまだ、己が何をすべきなのか定まっていない。
だから、ひゅうがと話がしたい。
一期一振はふと溜息をつく。
「遠征に出るのは昼餉の後、それまでは弟達の手伝いでもするかな……」
昼餉までまだ時間はあるからと、一期一振は馬当番をしている平野と薬研のいる馬舎へと向かおうと踵を返した。