第10章 手の温もり一期一振
主に惹かれるのは、刀の本分。
果たしてそうなのだろうか。
一期一振が顕現してから、ひゅうがとはあまり会話をしていない。
顕現してすぐ、彼女は言葉を交わすこと無く一期一振の目の前で倒れた。
慌てて抱き上げたひゅうがの身体は軽く、こんなにも幼くか弱い少女のどこに戦う力があるのかと不思議に思ったほどだ。
その考えは、ひゅうがの力のことを知らされた今も同じだ。
彼女は何故、戦いに身を投じるのだろうか。
「いち兄っ、いち兄ってば!」
「……っ」
はっとして一期一振が顔を上げると、乱藤四郎が一期一振の顔を覗き込んでいた。
「いち兄、お腹空いてないの?それなら、これ食べていいかな?」
乱が指差したのは、朝食に出た水菓子。
一期一振が食べるのを楽しみにしていたブルーベリーだ。
もちろん、楽しみにしていたなど言えるわけがない。
「…………いいよ、兄弟達で分けて食べるんだよ」
にっこりと微笑むと、一期一振は乱にブルーベリーが入った小鉢を差し出した。
「ありがとう、いち兄っ!」
「どういたしまして」
自分は今、どんな表情をしているだろう。
ちゃんと笑えているだろうか。
ブルーベリーが食べられなかったのは至極残念だが、弟達が笑ってくれるならそれでいい。
一期一振は弟達がブルーベリーを食べるたびに笑顔になるのを見ていると、ふと視線を感じた。
「…………?」
視線を感じた先を見ると、ひゅうがが一期一振を見ており、彼女は一期一振と目が合うと、にっこりと微笑んだ。
今のやり取りを見ていたのだろうか。
一期一振はひゅうがに曖昧に微笑むと、自ら目を逸らした。