第10章 手の温もり一期一振
歌仙と一期一振が食事の支度を終える頃、明け六つの鐘が鳴った。
刀剣男士達が各々目を覚まし、身支度を終えると大広間へと足を運ぶ。
「いち兄、歌仙様、おはようございますっ」
「おはよう」
早々に身支度を済ませた平野藤四郎や五虎退などの短刀達が配膳を手伝い、席に着いた者は全員が集まるまでそれぞれ言葉を交わし合っていた。
「おはようございます」
「主様っ、おはようございます」
ひゅうがが大広間に入ると、次いで近侍の加州がその後に続いて大広間に入って来た。
彼女が姿を現わすと大広間内がさらに騒がしくなる。
それぞれがひゅうがに挨拶をし、彼女は微笑みながら挨拶を交わす。
「主、おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
ひゅうがが席に着くと、へし切長谷部が彼女に声をかけた。
「んーどうだろう、いつもと同じかな。けど、寝相が悪かったみたい」
ひゅうがが笑いながら長谷部に話すと、二人の会話を遮るように加州がひゅうがの前に朝食を置く。
「今朝は里芋の煮付けがあるよ。主、歌仙が作った煮付け好きだよね」
加州がひゅうがに微笑むと、長谷部の方を見て加州はさらに微笑んだ。
その顔は、笑顔なはずなのにどことなく冷たい。
「さ、長谷部も早く朝食食べよう?」
「…………」
加州と長谷部の間に冷たい空気が流れた。
加州は笑っているが、長谷部の顔は不満そうな表情をしている。
無理もない、誰もが主であるひゅうがと少しでも話がしたいのだ。
一期一振は加州と長谷部のやり取りを黙って見ていた。
すると、横から薬研藤四郎がそっと耳打ちする。
「いち兄も大将に惚れたか?大将相手じゃ苦労するぜ」
「薬研、私は別にそういうつもりで見ていたわけでは……」
一期一振は慌てて否定しようとするが、薬研はからかうように笑う。
「ま、刀が主に惹かれるのは普通のことだ。俺っちだって……なんてな」
「薬研……?」
「なんにせよ大将相手じゃ、敵が多すぎるぜ」
薬研は溜息をつくと、朝食を食べ始めた。