第8章 桜の樹の下で 加州清光①
加州は広間に全員を集めると、ひゅうがが一度目を覚ましたことを伝えた。
それぞれが安堵の表情を浮かべたが、五虎退は今にも泣きそうな顔をしていた。
「ぼ……僕が主様に、わ……我儘を言ったせいでぇ……」
「自分を責めてはいけないよ五虎退、さぁ涙を拭いて」
五虎退に手巾を差し出し、一期一振が慰めていた。
加州はその様子を黙って見ていた。
しばらくして、再びひゅうがの部屋に行こうと加州が広間から出ると、廊下でへし切長谷部に呼び止められる。
「加州っ」
「……なに?」
苛立ちが口調に混じったのは、すぐにでもひゅうがの部屋へと逸る気持ちのせいもあるが、それ以外に今は長谷部の顔を見たくはなかった。
「その……、何か出来ることはあるか?」
加州の態度に長谷部は戸惑った表情をしていたが、加州は構わず口調を強めた。
「……あぁ、そういえば長谷部は主お世話係ってやつだっけ?今は近侍の俺がいるから、はっきり言って必要ない。今も、これからもっ!」
加州は吐き捨てるように言うと、長谷部の顔を見ないように俯く。
「…………」
「すまない。加州が怒るのは当然だ。主が倒れた時、俺は側にいなかったのだから。呼び止めてすまなかった」
長谷部は踵を返し、広間へと戻っていった。
「…………」
大人気無いことを言ってしまった。
主お世話係なんてもの、気に食わないのは確かだが、これは単なる長谷部への八つ当たりだ。
ひゅうがが倒れた時、自分がその場にいなかったことが一番腹立たしい。
近侍だというに、側にいなかった。
遠征に行っていたから仕方ない、とは思えなかったのだ。
「……かっこ悪」
加州は呆れるようにため息をつく。
こんな時、安定がいたらよかったのに。
そう思いながら加州は廊下を歩き、ひゅうがの部屋へと向かった。