第8章 桜の樹の下で 加州清光①
「ひゅうがっ‼︎」
加州は彼女の名を呼び、慌てて駆け寄る。
ゆっくりと目を開けるひゅうがの顔を覗き込むと、彼女が目覚めたことに安堵し、優しく微笑んだ。
「…………」
こんのすけは、加州がひゅうがを名前で呼んだことに驚くような素振りはせず、ただ黙ってひゅうがの部屋から出て行った。
「清光……?」
ひゅうがは目を開けると、加州の瞳を見つめたまま、手を上げて彼の頬に触れる。
加州の頬を撫で微笑むと、ひゅうがは目を潤ませ、涙を流した。
「本当に来てくれたんだね……」
「……ひゅうが?」
加州は涙を流すひゅうがに驚き、頰に当てられたひゅうがの手に自分の手を重ねた。
「清光の手、あったかい……」
ひゅうがは愛おしそうに目を細めて笑うと、再び目を閉じた。
加州の頬に触れていた手から力が抜け、手から抜け落ちそうになるが、加州はその手を握る。
「ひゅうがの手も、暖かいよ」
ひゅうがの手の平に口付け、彼女の手を下ろすと、ひゅうがの目尻から流れた涙を拭う。
すぐにまた目を覚ますだろうか。
加州はこのままここでひゅうがが再び目を覚ますのを待つか悩んだ。
だが、本丸内の全員がひゅうがを心配している。
まずは、ひゅうがが一度目を覚ましたことを報告すべきだろう。
「ひゅうが、またあとでね」
加州はひゅうがの頭をひと撫ですると、彼女の部屋を後にした。