第5章 立てば芍薬 加州清光
本丸から少し離れた湖。
ひゅうががよくそこで佇んでいる姿を加州は何度か見かけていた。
遠目にはひゅうがの姿は見当たらなかったが、不自然なほど草が伸びている場所があるのが気にかかり、加州は湖の近くまで足を進めた。
「こんなところにいたんだ……」
湖のほとり、背の高い草の中に隠れるようにひゅうがが寝転んでいた。
「主、昨日は四振りも顕現したんでしょ?身体は大丈夫なの?」
ひゅうががゆっくりと目を開けると、上半身だけ身体を起こし、顔を俯かせた。
「身体は何ともないよ。むしろ元気なくらい……自分でも驚いてる」
元気と言っているが、声の調子は暗い。
加州がひゅうがの顔を覗き込むと、目が赤く、腫れていた。
一人で泣いていたのだろうか。
「主……泣いてたの?」
「…………」
ひゅうがは何も答えず、加州に背を向ける。
初めて会った時もこんな感じだったなと、加州は小さく笑った。
彼女の心は脆く、弱い。
一人になるのを恐れているのに、辛いことなどの重荷を一人で背負い、孤独で在ろうとする。
そんなひゅうがを支え、彼女の心に寄り添いたい。
加州は自分に背を向けるひゅうがを後ろから抱き締めた。
「主……、俺のこともっと頼ってよ」
「加州……」
抱き締めたひゅうがの身体は細く、力を込めれば折れてしまいそうだ。
「私は……自分の力が怖い」
ひゅうがが小さく呟いた。
こんのすけは以前、ひゅうがの力は数多いる審神者の中でも、群を抜いていると言っていた。
だが、ひゅうがの自己否定が強すぎて力が不安定だとも。
「審神者として生きるって決めたのに、怖がってたらダメだってわかってはいるんだけど……」
ひゅうがが持つ異能の力。
加州はまだ、それがどんなものかは知らないでいた。
だが、ひゅうがの力がどのようなものであろうと、加州のひゅうがへの想いは変わらない。
「怖いなら、俺が主の側にいるよ。どんな力であっても、ずっと……ひゅうがのそばにいるから」
「……ありがとう」
ひゅうがが加州の手にそっと触れる。