第3章 二振目 へし切長谷部①
「料理は刃物も使うし、食材を扱うには、力加減も大切」
ひゅうがは手を洗うと、塩を手に振り、器に入ったお米をひと握り手にとる。
「それにただ作るだけじゃなくて、食べてもらう人のことも想いながら作る。料理から学べることは沢山あるの」
塩漬けにして焼いた鮭を中に入れ、軽く握ると、ひゅうがの手の中で転がされたそれは三角の形となる。
ひゅうがは出来たばかりの握り飯を、長谷部へ差し出した。
「さ、食べてみて?」
ひゅうがの微笑みに、長谷部は魅入ってしまった。
これまで、このように優しく微笑まれたことはあっただろうか。
「……長谷部?」
「……っ、すみません主、では有難く頂きます」
長谷部が恭しく両手で握り飯を受け取ると、ひと口頬張る。
「……っ⁉︎」
長谷部の表情が明らかに変化していく。
「どう?」
「美味しい……です」
そう言って、長谷部は一気に握り飯を平らげた。
「よかった。今のは長谷部を想って作ったからね」
「ならっ‼︎今度はこの長谷部が、主を想って作ります‼︎」
先ほどとは違い、長谷部が料理に意欲を示してくれている。
長谷部はおもむろに米を握りしめた。
だが、ひゅうがのように三角の形にはならない。
「……主」
「あらら、手は濡らさないとお米が手にくっついちゃうよ」
ひゅうがは長谷部の手を取ると、桶に溜めた水の中に長谷部の手を浸すと、手に付いた米粒を拭う。
「長谷部……わかる?おにぎり作るときもだけど、人同士で触れ合う時も、こんな風に優しく……だよ?」
指一本一本、丁寧に洗ったのち、優しく手を包み込む。
その仕草に長谷部は胸の高鳴りを覚えた。