第3章 二振目 へし切長谷部①
ひとしきり本丸内を案内し終えると、ひゅうがは長谷部と厨を訪れた。
「最後に、ここが厨房。みんなのごはんを作るところ。しばらくしたら加州が起きてくるから、それまでに私と長谷部で朝ごはんを作ります」
「食事の支度……ですか?」
男の身で料理はしない、そう思ったのだろうか。
長谷部は不満そうな顔をしている。
「……やりたくない、かな?」
「いえ、主命とあらば。ですが俺は刀です。刀は戦に行き、敵を斬らなければっ」
「確かに、長谷部にも戦に出てもらうつもりだけど……」
ひゅうがは言葉を濁すと、長谷部にどう説明するか考えながら、加州が顕現したての頃を思い出す。
もともと人間であったひゅうがには、ヒトになりたての刀剣男士がいかに不器用か知る由もなかった。
加州を顕現するまでは。
顕現した翌日、加州はひゅうがの為に、確かに尽力してくれた。
慣れないヒトの身体での料理はさぞ苦労しただろう。
ほぼ生米に近いしょっぱい粥、調味料や調理器具が散乱した厨。
自分の為に精一杯やってくれたのはよくわかってはいる。
だが、初めて過去へ出陣した際、かなりの深傷を負って戻った加州を見て、ひゅうがは心底後悔した。
彼らは、元は刀。
己の意思で動く身体を手にしたが、ヒトの身体がいかに脆いか知らないのだ。
解らないまま戦えば、致命傷を負いかねない。
まずはヒトの身に慣れなければならない。
「えっと……顕現したてだと、まだヒトの身体に慣れてないでしょ?」
加州の時は、畑仕事や馬の世話で慣れていったが、汚れ仕事は大層嫌がっていた。
それならば、ひゅうがが得意な料理を通じて教えるのが一番なのではと考えていた。
それに、彼らは戦うことだけが全てではないと知ってもらいたい。
人だからこそ、触れ合うことが出来る尊さを。