第3章 二振目 へし切長谷部①
ひゅうがに手を握られただけだというのに、長谷部は胸が苦しくなる自分に戸惑っていた。
ひゅうがの手や桶の水は冷たいというのに、自分は燃えるように熱くなっている気がする。
先ほど、ひゅうがの手に口付けた時は、こんな風になることはなかったというのに。
長谷部はひゅうがの手を、ギュッと握りしめる。
「……主」
「どうしたの?」
長谷部はひゅうがを見つめる。
今、ひゅうがを抱きしめてしまいたい。
腕の中に閉じこめ、その赤い唇に口付けたなら、彼女はどんな顔をするだろうか。
長谷部の心にそんな考えがよぎるが、無垢な瞳で見つめ返すひゅうがにそんな狼藉を働くわけにはいかない。
長谷部は己を律するように首を左右に振る。
「主、お任せください。最良の握り飯を、主に」
「え……あ、うん。頑張って一緒に作ろうね」
真面目な表情で何を言うのかと構えていたひゅうがは思わず面食らったが、やる気になってくれるのは良いことだと思い、さほど気にしないようにした。
そして、その日の朝食は長谷部が作った
大量のおにぎりだった。