第3章 二振目 へし切長谷部①
加州と身体を重ねた翌日、ひゅうがは夜明けと同時に目を覚ました。
今宵は新月、ひゅうがの力が最も高まる日。
ならば、何振り顕現しようとも、以前のような身体への負担は少ないに違いない。
ひゅうがは早々に支度をすると、顕現の間へと来ていた。
部屋の奥には、一振の刀が飾られている。
「…………」
ひゅうがは迷うことなく刀を手に取り、鞘に収める。
そして、己の力を注ぎこんだ。
ひゅうがの手元が光り、刀を包み込むと、藤色の光が室内を照らす。
「……私はあまなつひゅうが、貴方は?」
「へし切長谷部、と言います。主命とあらば、なんでもこなしますよ」
新たに顕現したのは、ひゅうがより遥かに背が高く、藤色の瞳が美しい青年だった。
瞳の美しさもだが、命令ならばなんでもこなすという言葉がひゅうがの興味を引く。
「……なんでも?」
へし切長谷部は微笑むと腰を落とし、跪いてひゅうがの手に口付ける。
「主命とあらば」
彼は、ひゅうがの命ならなんでもやると。
なら、いつかひゅうがが直面しなければならない使命と向き合う時、彼がきっと力になってくれるだろう。
ひゅうがは自嘲するように微笑む。
「そう……よろしくね。えっと、へしきり……」
「できればへし切ではなく、長谷部と呼んで下さい」
長谷部は立ち上がると、背の高くないひゅうがに配慮して、ひゅうがのすぐ目の前ではなく、一歩引いた位置に立つ。
「じゃあ長谷部、早速やることがあるから、私についてきてね。ついでにこの本丸内を案内します」
「どこまでもお供します」
そう言って、長谷部は顕現の間を出たひゅうがに付き従った。