第15章 情欲と理性の間で 一期一振※執筆中
一期一振は涙を指先で拭うと、そっと頭を撫でる。
主であるひゅうがにそのようなことをするのは、失礼に当たるかもしれなかったが、ひゅうがの涙を見て見ぬ振りは出来なかった。
「主、なぜそんなにも……」
胸が締め付けられるようなひゅうがの悲痛な声に、一期一振はもどかしい気持ちになった。
謝罪の相手を、涙の理由を、一期一振は知らない。
加州清光、彼ならば、全て知っているのだろうか。
ただ彼女の頭を撫でるしか出来ない己に、一期一振は顔を歪ませた。
「貴方を護ると決めたというのに……」
しばらく頭を撫でていると、ひゅうがの表情は和らいでいく。
苦痛な表情から穏やかな顔に戻ると、一期一振はホッとした。
理由はどうであれ、ひゅうがに辛い表情をさせたくはない。
一期一振はひゅうがの髪を一房すくうと、愛おしげに指先で梳く。
そして、彼女の髪に口付ける。
部屋にはひゅうがと一期一振の二人きり。
誰も彼の行いを咎めるものはいない。
「主、貴方は本当に無防備な方ですね……」
一期一振はひゅうがの頰を指先でそっと撫でる。
そして、その頰に一期一振の唇が触れそうなほど近くまで寄せた時、不意にひゅうがの目が開く。
彼女の深い青色の瞳と目が合い、一期一振の心臓が早鐘を打った。
「いっ……一期一振っ!!帰って……きてたんだ。ごめんなさい、つい眠くなってしまって……」
目があった瞬間、ひゅうがは勢いよく頭を上げ、慌てた様子で一期一振から距離をとろうと後ずさった。
そこまで勢いよく飛び退かなくてもと一期一振は思ったが、一拍した後、一期一振は何故ひゅうががここに来たかを思い出す。
「……主」
さて、何と切り出すべきか。
先ほどのひゅうがの涙で、一期一振は遠征前に抱いていた怒りなど吹き飛んでしまっていた。