第14章 花と鯰 鯰尾藤四郎
スッと障子が開いたのは、ひゅうがが想定していた戸と反対側、顕現の間側である。
肩までの銀髪に、鯰尾と似た装束を着た少年がひゅうが達を見下ろしていた。
「……え?」
「あ、骨喰!!」
鯰尾は親しげに少年に声を掛ける。
おそらく、先程ひゅうがが手にしたもう一振の脇差だろう。
ひゅうがが一度触れたせいか、やはり力が漏れ出たせいか、意図せずに顕現してしまったのだ。
ひゅうがは己の未熟さを悔やんだ。
いい加減、多少の動揺程度で力が漏れ出るのは何とかしたいものだ。
ひゅうがは他の二振も顕現していないか心配になったが、どうやら顕現したのは彼だけのようだ。
「あんたが主か?」
「そう……です。私はあまなつひゅうが、貴方は?」
「俺は骨喰藤四郎。すまない、記憶がほとんどないんだ。記憶にあるのは、炎だけ……」
つまり、骨喰にとって炎の次の記憶は、鯰尾に押し倒されているひゅうがの姿ということになる。
しかもその状態のまま、互いの名を明かし合ったのだ。
「…………」
嫌な記憶すぎる。
骨喰がこの状況をどう思っているか、彼の表情からは窺い知れないが、ひゅうがは苦々しい顔をした。
いっそこのまま気を失いたい、ひゅうががそう思ったその時、掛けてくる足音が聞こえてきた。
「主っ!!いらっしゃいますか!?」
スパンと勢いよく障子が開いたのは、廊下側だ。
息を乱した一期一振が部屋へと入ってきた。
「あ、一兄!!」
「鯰尾、骨喰…………っ主!?」
一期一振の目に入ってきたのは、弟の鯰尾と、鯰尾に押し倒されているひゅうが、そしてその二人を静かに傍観している同じく弟の骨喰の姿。
どのような経緯でこうなったのか、一期一振には想像出来ず、目の前の光景を見たまま、しばし固まった。