第14章 花と鯰 鯰尾藤四郎
以前、五虎退は僕たち藤四郎は兄弟が多いと言っていた。
一体何振りいるのだろう。
出来れば全員顕現させてあげたい。
五虎退は兄弟と一緒にいる時、幸せそうに笑うのだ。
その笑顔にひゅうがは幾度も癒されてきた。
新たに二振も顕現したと知れば、どれほど喜ぶだろうか。
ひゅうがは五虎退の笑顔を頭に浮かべながら、鯰尾が指差した脇差を手に取る。
あとは刀を鞘に納めるだけだが、ひゅうがはふと手を止めた。
「えっと……」
横からの視線が気になる。
ちらりと横目で鯰尾を見れば、彼はじっとひゅうがを見つめているのだ。
いつもなら顕現させる際、他の刀剣男士は部屋の外に控えさせている。
だが顕現を急いでいたせいか、鯰尾に退室を命じ忘れた上に、彼の視線が気になる。
「鯰尾、ごめん。あの……視線が気になって、しまうのだけれど」
「え?気になりますか?そんなに見てるつもりはなかったのですが……。主は俺に見られるの、嫌……ですか?」
鯰尾は憂いた表情を浮かべると、ひゅうがの手から刀を取り上げ元の場所に戻した。
「嫌とかじゃないけど、どうしたの?」
「その、今日は俺にとっては顕現した特別な日ですから、主の姿を目に焼き付けたいといいますか……もっと主と話をしたいです。ダメですか?」
遠慮がちに言う鯰尾に、ひゅうがは何度か瞬きをした。
「……それなら鯰尾、こちらにおいで。少しだけなら、いいよ」
「やった!ありがとうございます!」
ひゅうがの言葉に、鯰尾は目を輝かせながら彼女の手を取った。