第14章 花と鯰 鯰尾藤四郎
光が収まり、ひゅうがが目を開けると、そこには藍色の長髪を赤い紐で一つに結った少年が立っていた。
「俺は鯰尾藤四郎。燃えて記憶が一部ないけど、過去なんか振り返ってやりませんよ」
「私はあまなつひゅうが、貴方も粟田口なんだね。ここには粟田口の刀が八振りいるから、きっとみんな喜ぶだろうなぁ」
朗らかに笑うひゅうがに、鯰尾藤四郎は一歩近づく。
繋いでいる手を胸元にあげると、両手でキュッと握りしめる。
「過去を振り返るつもりはありません、だから……主、貴方と寄り添って新しい思い出を作っていいですか?」
「もちろんだよ。ここで私と……私たちと新しい思い出を作ることはいくらでもできるから」
命尽きるまで、この本丸で一緒に。
そう言ってひゅうがは鯰尾の手を握り返した。
「まずは今日、最初の思い出作りですね。んーと……」
少し考えるような素振りをすると、鯰尾はひゅうがの手を引っ張り、彼女の頬にちゅっと口付けた。
「わ……っ!?」
「これ、前の主が女性にやってたんですよね。俺も一度やってみたかったんです。他にも色々ありますよっ」
「色々っ!?記憶ないってさっき言ってたよね?」
色々とは、何なんだ。
ひゅうがは顔を赤らめ、動揺しながら一歩ずつあとずさった。
「一部です……記憶がないのは」
「…………」
「ところで主、その刀も藤四郎で兄弟です!」
鯰尾はひゅうがの背後を指差す。
こちらも顕現すれば、十振り目の粟田口である。
何か縁があるのだろうか。