第14章 花と鯰 鯰尾藤四郎
顕現の間の戸を開けば、鍛刀された刀が目に入る。
ひゅうがは、ぐっと歯をくいしばると、ゆっくりと室内に入った。
ひゅうがは以前、部屋へ入った瞬間に納められた刀全てを顕現させてしまったことがある。
無意識だったが、何らかの理由でひゅうがの持つ力が内から溢れ出ていたのだろう。
五振りの刀を同時に顕現させてしまい、ひゅうがは力の反動で倒れ、そのまま幾日も目覚めなかった。
もう同じ轍は踏まないようと、彼女は慎重に部屋の奥へと進む。
「……大丈夫そう、かな」
今のところ、何か起きる気配はない。
ひゅうがはふっとため息をつくと、部屋の四隅をぐるっと見回した。
納められているのは脇差二振りに、打刀と槍が一振ずつ。
ひゅうがの本丸にはまだ、脇差がいない。
彼女は脇差の方へと進むと、まじまじと刀身を見つめた。
「……ん?」
ひゅうがが脇差二振りのどちらから顕現するか見比べていると、紋が目に留まった。
それは可愛らしい紋で、ひゅうがは口元に笑みを浮かべた。
「なまず……だよね?大きいなまずを斬った脇差とかかなぁ?」
とんぼを真っ二つにしたから、蜻蛉切。
ならこの脇差は、鯰切かもしれない。
そんなことを考えつつ、ひゅうがは刀を手に取ると鞘に納めた。
そして己の力を注ぎ込めば、光が刀を覆い、眩い光が室内を照らし出す。