第12章 面影
「……こんのすけ?もしもーし!」
ツンとほっぺをひゅうがに突っつかれ、こんのすけはハッとした。
「こんのすけ、話聞いてた?」
こんのすけが顔を上げると、ひゅうがはこんのすけの顔をジッと見つめていた。
青色の瞳に金の光を帯びたひゅうがの瞳は、いつ見ても美しく、時に悲しく胸をしめつける。
「……こんのすけ?」
ひゅうがと目があったまま、何も言わないこんのすけにひゅうがは困ったように小首を傾げた。
「ひゅうが様……すみません。少々考え事をしておりました」
「珍しいね。いつもは私がこんのすけに話聞いてないって怒られるのに」
ひゅうがは屈託もなく笑うと、こんのすけの頭を撫でた。
「…………」
ひゅうががこの本丸に来た頃は、こんな風に笑いはしなかった。
長い眠りから目覚めたひゅうがは、笑いもせず、ただ茫然と空を見ていた。
幾日かしてから、これまでのことを話し始めたが、それはこんのすけの予想とは違っていた。
まず、ひゅうがが名乗ったあまなつ姓は、桜の君の姓とは違っていた。
恐らく、記憶の改竄か何らかの刷り込みをされたのだろう。
自分は幼い頃、両親に捨てられたのだとも彼女は言っていた。
ひゅうがが両親のことを覚えておらず、捨てられたと思いこまされていることには憤りを感じたが、彼女は歴史修正主義者の思想を教え込まれてはいなかったことには安堵した。
ただ単に、里で自分と同じ異能を持つ者達寄り添って暮らし、里を守っていただけ。
ひゅうがが歴史修正主義者側というわけではないのなら、彼女に全てを話す必要はなかった。
全てを話したことで、彼女が過去を変えたいと思ってしまったなら。
その気持ちを抱えたまま審神者になり、いつか歴史修正主義者側に堕ちてしまったなら。
ひゅうがは政府によって排除されてしまうだろう。
それならば、彼女は桜の君の御子としてではなく、あまなつひゅうがとして、新たな人生を歩めばいい。