第12章 面影
「さ……桜の君……?」
こんのすけがかつて仕えた審神者、桜の君。
まだ経験が浅く、初めての審神者付きとなった時に仕えた主だ。
政府からも一目置かれており、たとえ一時でも彼女に仕えたことが何よりの誉れだった。
その桜の君が、目の前の女性だというのか。
確かに、似ている。
瞳は閉じられているため断言は出来ないが、桜の君にどこか似ている。
こんのすけは恐る恐る呼びかけたが、返事はない。
「いや……違う。桜の君では……ない」
そう、そんなはずはない。
桜の君はもう、いない。
亡くなったのだ。
子をなくし、失意のまま眠るように息を引き取ったという。
桜の君の本丸から異動となり、別の審神者に仕えていた際に政府より知らされたのだ。
間違いない。
「…………」
こんのすけは彼女の顔を見つめながら、記憶の中の桜の君に思いを馳せた。
刀剣男士達に囲まれ、朗らかに笑っていた桜の君。
時には戦場に赴く勇ましい姿を見せたかと思えば、夫君と話す時には可愛らしく頬を染める女性らしさを見せる。
そして、子供たちには愛情深い笑顔を見せていた。