第11章 たきしめる 歌仙兼定※R18
歌仙は自室を出たあと、厨とは反対に歩き出した。
朝餉の支度をする前に、やっておきたいことがあったのだ。
歌仙は目的の部屋の前に立つと、障子越しに声を掛ける。
「一期一振、起きてるかい?」
訪れたのは、一期一振の部屋である。
歌仙が声を掛けると、室内にいた一期一振がゆっくりと障子を開けた。
「歌仙殿……?こんな早くからどうされたのです?」
歌仙の急な訪問に一期一振は困惑しているようだが、歌仙はそんな彼のことを気にすることなく、室内へと入っていった。
「明け方、主が君の部屋から出ていくのを見てね。何をしていたのかなと気になったんだ」
よくもまあ、こんなこと言えたものだ。
実際に見ていたわけではなく、ひゅうがから聞いたことだ。
二人で何をしていたのかも知っているし、別に気になったわけでもない。
歌仙が知りたいのは、別のことだ。
一期一振もまた、ひゅうがを花開かせる相手になり得るのかどうか。
「その、主とは……主は私の体を心配して来て下さっただけです」
「そうなのかい?僕はてっきり睦ごとでもしていたのかと思ったけど?」
「歌仙殿、私は主にそのようなことはっ!それに私は主を……」
普段から穏やかな一期一振が、あまり表立って感情を出すのを歌仙は見たことがない。
だが、その彼が顔を赤らめ、感情を露わにしている。
「否定するというのかい?僕はそんなことはしないよ。僕は主を心から想っている。君は違うの?」
一期一振は真面目すぎる。
たとえ彼がひゅうがを恋い慕うようになっても、彼女を想うあまり身を引くか、気持ちを抑えてしまうだろう。
だが、それでは歌仙が困るのだ。