第11章 たきしめる 歌仙兼定※R18
歌仙はひゅうがの身体を優しく拭き、寝間着を羽織らせる。
「まだ早い時間とはいえ、寝間着で部屋に戻るのはよくないな。ここで着替えていくといいよ」
歌仙はひゅうがの手を引くと、自室の続き部屋へひゅうがを案内した。
続き部屋には書棚や華やかな着物が掛けてあり、ひゅうがが見たこともない道具もあった。
「歌仙、これは何ですか?」
「これは伏籠だよ。この下に香炉を置いて、着物に香を焚き染めるために使うんだ」
ひゅうがの着物は、歌仙が見立てている。
歌仙は給金が入る度にひゅうがへ着物を贈っており、それらは全て歌仙が管理して毎日彼女の元に届けられている。
「君の着物は全てこれで焚き染めているよ」
ひゅうがは何故、自室に着物を置けないのか不思議に思っていたが、この為だったのかと合点がいった。
「歌仙に戴いた着物はどれも好きです。けど、せっかくの御給金なのに……」
「僕はね、君が思っている以上に君のことが好きなんだ。だから、君の可愛らしい姿を沢山見たいんだよ」
歌仙はひゅうがにと用意していた着物を出すと、ひゅうがに着付けていく。
着物は浅葱色に桃色の牡丹があしらわれていて華やかさがあり、藍色の袴は凛々しさも感じさせる。
歌仙が選ぶ着物はいつも見事だ。
「さっきも、君が可愛すぎてつい悪戯が過ぎてしまったね。お詫びとして、朝食には主の好きなものを作ろうか。何が食べたい?」
「……里芋の煮付けがいいです」
「わかった。僕は先に行くから、君はもう少ししてから部屋に戻るといいよ」
そう言って微笑むと、歌仙は自室を後にした。