第1章 雨の降る夜
バイト先から自宅までは歩いても10分無いくらい。
昼間は喫茶店、夜はバーをやっているおしゃれな店で、俺はキッチン担当。
高校生の頃からファミレスで調理をやっていたので、大学に進学し一人暮しを始めてもあまり困ったことが無い。
遠くの方で、アパートの街灯がうっすらと見えた。
土砂降りで視界が悪く、いつもよりも家までの道のりが長く感じる。
「げっ、サイアク!!」
帰宅途中にある唯一の信号。
いつもは引っかからないのに、今日に限って目の前で赤く変わった。
既に服も靴もびしょ濡れ。
俺は諦めて、信号が変わるのを待った。
目の前の大通りを、水しぶきを上げながら車が走り抜ける。
俺がぼーっとその流れを目で追っていると……視界の端に何かを捉えた。
「ん?」
目を凝らしてよく見ると、道路の向かい側でずぶ濡れの何かが蹲っている。
信号が変わり、それに近づいて見ると────。