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短篇集

第6章 『由良の途を』②




ガチャ…




顔も知らない、挨拶をしたこともないただ一人のお隣さんが

階段を降りようとした時に出てきたのだ



それは



私のよく知る人物だった…




『…ぁ


黄瀬…君』




私は唖然とした

まさか隣に暮らしていたのが、遭いたくなくて堪らない相手だったなんて…




「あ、 名前ちゃん」



黄瀬は至って冷静にそう呟いた


暫し沈黙が生まれた



私の脳はフリーズ寸前だ


先に沈黙を破ったのはやはり黄瀬だった





「あ…もしかして、俺が隣りの住居人だって今まで知らなかった?」



え?



何その言い方?



まるで黄瀬君は、私が隣りに住んでいることをさも知っていた様な…



「俺、 名前ちゃんがここに入居する数日前に入ったんッスよねー」


などとヘラヘラと頭を掻きながら話す


『あ…そう、だったんだ』


私は顔を引き攣らせた


その表情に、黄瀬は少し妖艶に
口元に弧を描く


「 名前ちゃん、案外鉄仮面じゃないんスね。本当は思ってること、顔に出やすいタイプなんじゃないスか?」

『…っ!』



…最悪だ


ほんとに気分悪い


一番悟られたくないことを


この男は容赦なく見抜く



やっぱり、私はこいつが大の苦手だ



兎に角黄瀬と離れたくて
私はいつもの作り笑顔で
『ふふっそうかもしれないね』
そう適当な言葉だけ残して、一方的に手を振り、その場から立ち去る



黄瀬は一人、ポツンとその場に残され



「…クラス同じだから、どうせまたすぐ顔合わすんスけどねぇ」


首をカリカリと掻きながら
彼女の残り香を探す


「ま、今日ははじめて会話させてもらえたわけだし満足っスけど…」




そうして香りを辿るように歩を進み



あー…


相当嫌われてんなー…俺




と苦笑いした


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