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短篇集

第5章 『由良の途を』黄瀬涼太





『あー…ぁ』


部屋に転がり、録画しておいた洋画を観ながら
手作りの質素な晩食を退屈そうに小さく千切り
重く感じる箸をゆっくり口元へと運ぶ


一人暮らしを始めてはや一か月
まだ慣れきっていない暮らしに明日、変化が訪れる

遂に入学式だ

やっとこの退屈過ぎるスペースから抜け出せる日が来るんだ
唯一心配なのは、朝が起きられるかどうか

友達は、出来たら良いな
まぁ、どうせ出来るだろう
当たりよくしてさえいれば、誰かしら近寄ってくる
私はそこまで容姿は悪くないのだから
自分で言うのもなんだが、どちらかと言うといい方だと思う
ただ、殆ど無表情だからなのと、態度が冷たいから、今迄男に好かれたことはない
男友達は居るけれど

別に笑顔を作れない訳じゃない

だけどそれは頬の筋肉使い疲労するからあまりしないだけ
明日は勿論作るけど…


冷たい人間だって?

それの何が悪いの?

自覚してるわよ
そんなもん

だけど、こういう容姿でこういう性格してたらね
女の子には信頼されるのよ?

大人だって

しっかりしてるって認識になるの

不思議なもんよね



『…はぁ』



こんな私でも



一人で暮らしていたら



“寂しい”とは


感じてしまう






もしも私が風邪を引いたら?


誰も看病なんてしてくれない

家で一人

布団にうずくまって、熱が退くのを待つしかないの



そんな事を想像していたらね、とてつもなく寂しくなったの



彼氏、欲しいなぁ…



お粥を作ってくれる彼氏が欲しいな

無言で背中をさすってくれるような人が良いな




なんて、ただの妄想



こんな私に、彼氏なんて当分出来ないでしょう


無いモノねだりは人の性よね





…あー…ぁ


明日は入学式かぁ…





どうでもいいや


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