第3章 死柄木と一般人①
一瞬
何が起こったのか分からなかった
肺を圧迫するそれは
成長途中の少し骨が残こった柔らかな感覚と
久しぶりに感じる人の温かさを与える
そして
ほのかに香る
日光の匂い
「……っは?」
一つ一つの要素を整理してはじめて
女に抱き付かれている事を理解する
「…何のつもりだよ」
『だって!貴方に壁に追い詰められてて!!前にしか逃げ場がなかったんだもん!!!』
はあ、なるほど
なんとなく思考回路は理解したつもりでいた
「…お前…そこまで死にたくないか…」
『当たり前じゃないですかあ!!前途ある若者なんだからあ!!!』
目に涙を溜めるガキに
大人げなくなってき、そして阿保らしくもなってきた
なんでこいつは
自分を誘拐した敵の胸中で弱々しく泣きじゃくっているんだろうか
世間知らずも良い所だ
「泣くな鬱陶しい、殺すぞ」
そう言えば女は
涙を溜めたまま顔を上げ
泣いてませんとアピールしてくる
「死柄木…どうするおつもりで?」
殺さない所を見て黒霧がカウンターの向こうから覗き込み、声を掛ける
「そうだな、じゃあ玩具にでもしようかな」
冗談のつもりだったが女はまた顔色を悪くする
「ジョークだよ、俺別に加虐趣味とかましてやガキなんか…ねえから」
『はっ…ははは……』
ジョーダンという言葉に対し、無理矢理口角を上げて笑った素振りを見せるが
その顔はまだ緊張が抜けきっていない
「じゃあさ、お前、ウチに入れよ」
『……へ?』
「メンバーは多いだけいいし、それにいざとなれば盾にでもなるだろ?なあ黒霧、妙案だと思わないか?」
「はあ」
「あぁ、そうだ。パーティーに入るんなら名前ぐらいは知っとかないとな」
そう言い女の目を見遣る
女は名乗りを求められていることを理解し、あ…とこぼした後
「…苗字名前と申します……」
小さな声で答えた
「へえ…名前ね。その内覚えるよ」
そう言いながらなんとなく
四指で頭を撫でてやった