第7章 近づく ~淡きひかり~
胸の中のひいろを優しく抱き締める。
「すまない。俺も大人げなかった」
その言葉に、ひいろが顔をあげる。その額に軽く口づけを落とす。
「自分をもっと大事にしろ。家康への想いはどうした」
家康…今、一番口にしたくない言葉だったが、ひいろには一番効果がある。
思ったとおり、ひいろの瞳から女の色が薄れ、徐々にいつものひいろに戻っていく。家康のことを思い出したのだろう。
微かな寂しさが俺のなかを吹き抜け、俺の熱も冷ましていく。
「ごめんなさい……光秀様」
「気にするな」
もう一度ひいろのぬくもりを味わうように、ゆっくりときつく抱き締め、離す。
自分で離しておきながら、身体の一部を持って行かれたような感覚になる。
心はすでに、ひいろに捕らわれているのか。
自分の心をなだめすかし、ひいろの手をとる。
「お前に見せたいものがある」
「私に……」
ひいろの手を引き、社の裏手を歩く。少し進むと、さらさらと水の流れる音が耳に届いてくる。